バレンボイムのマスタークラスから学ぶ!生徒は世界的ピアニストのランラン!

今回は、バレンボイムによるランランへのマスタークラスから音楽に対する学びを深めていきます。曲はベートーヴェンピアノソナタです。
以下はほぼ全てバレンボイムの言葉です。
 
ランラン、とっても素晴らしい。音色も豊かで色々なメッセージも感じられる。でも批評をするのであれば、もっと曲が構造的になった方がいいということです。テンションが高くなったり音量が大きくなってくるとだんだんテンポが失われて来て、どこに音楽が向かっているのかわからなくなります。感情や音色が豊かになればなるほど、それらを戦略的に処理しどう計画的に弾いていくのかがとっても重要になってきます。大事なのは、曲が発展していく中で自分が今どこの段階にいるのか客観的に理解することです。メトロノームのように正確に刻むべき曲でなくても、テンポの波動を感じるべきです。静寂を取りすぎたり曲が間延びしてしまったりするとその波動を失ってしまい、曲がどこへ向かうのかがわからなくなってしまいます。
曲の特徴に合わせて、音符の表現方法を変えるのは大事です。(ピアノに特有の場合もありますが、)必ずしも書かれた音符がずっと同じ楽器として演奏されるべきだとは限りません。作曲家の意図を汲んで、全く別の楽器が入って来たように弾くのも大事なことです。
曲の途中で音のテクスチャー(すなわち音の性格、布で言うところの生地)が変わることがあるので、それを意識して、意識的にテクスチャーの違いを表現するのは大事なことです。
何かを始めるときは、必ず終わりを意識することが大切です。クレッシェンドにしてもディクレッシェンドにしてもアッチェレランドにしても、始めるときは必ずどういう過程を経て終わりを迎えるのか、考えることが大切です。そうすることで、途中どうすればいいのか想定して弾けます。
ピアノでも一つの音符でクレッシェンドができると信じることが大切です。
人生を複雑にしない意味でも、強く弾くべきときは気楽に考え、強く思い切って十分に弾ききりましょう。
フォルテッシモで感情的なところもテンポ感を失わないことが大切です。
リズムの波動を失うことはとても危険です。例えばシンコペーションを弾くとき。シンコペーションにリズム感が失われたらそのシンコペーションシンコペーションとしての自然の特質・性格を失うことになります。
レガートは間を空けずに滑らかに弾くと言うことが大事になって来ますが、その連続性をより強く感じるためにも、改めて新たに生み出すような音ではなく、音のニュアンスや強弱が一つのラインに沿って連続するような音の発音が大事になってきます。
移り変わりというのは音楽ではとっても大事な要素です。セクション同士の接続だけではなく、その移り変わり自身の性格を表現することがとっても大事です。音の連続したサウンドの響きを意識し、うまくオーガナイズして構造化することが大事です。それが移り変わりです。
テクスチャーからメロディーの雰囲気を考え表現することは大切です。音がいつから始まっているようなものなのか、どのような深みを持ったものなのかということを考えることが大切です。
転調したなら時間をとってその雰囲気の変化を強調することも効果的です。
 
音楽というのは完全に理解しきることはできません。音楽はまるで山のようです。山は常に一つの方向からしか見ることができず、その時に全てを見ることはかないません。だから、常に違う角度から音楽を理解することで新しい発見があり音楽を理解することができるのです。音楽を理解することは生涯にわたって続くことです。
 
音楽は、パーツを取り出して違いを理解することではなく、音色やリズムなどすべての音楽的要素を統合することによって生じます。ただのサウンドと音楽の違いは、音楽を作る時はすべての要素が組み合わされており、一つの独立した音楽的要素のみで成立することはない、ということです。表現やテンポ一つとっても、色々な要素が組み合わさっています。
 
曲を弾く時何かしらイメージは見えていますか?
(ランラン)はい、どんな曲でも。ショパンソナタに比べるとベートーヴェンソナタは音色面では豊かではありませんが、マエストロも教えてくれた通り、ベートーヴェンは構造的なので、まるで高い建造物を建てるかのような音楽づくりをイメージしています。その建物はどんなコンセプトを持って建てられるべきなのかいつも考えています。
バレンボイム)どちらかというと何かしらイメージを見ると音楽が流れてきます。ストーリーやイメージを持つこともいいことだと思いますが、イメージやストーリーを持っているか否かに関わらず、あなたの演奏する音楽はストーリーを持ち、それがお客さんに伝わるのです。
 
信じることが大事ということの真意とは?
14歳の頃、ホロヴィッツの前で弾く機会を得ました。そこでいくつか批評を受けましたがその中で生涯忘れないことを聞きました。「あなたは常に意識willを持たなければならない。」すなわち、あなたは、欲しなければならない。クレッシェンドをただするだけでは物足りないし、不十分です。クレッシェンドをするという強い意志が必要です。欲する意志を持つことで、技術や知恵が結成し、自然と音に変化が起きるのです。(曰くイリュージョン幻想、と言っています。)これは物理現象を超えた現象だと思います。信じたり、ポジティブに熱望したりし、想像することができれば、その現象は実際に起こるのです。これは言葉では説明しづらいです。これこそ音楽の奇跡と言えるものなのではないでしょうか。